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2016/6/22

新春特別セミナー「変動するグローバル社会の中で自己を確立する"WHY"」庄司 茂 氏 <後篇>

イベントレポート前半はこちら

フォルクスワーゲングループジャパン「ゴキゲン♪ワーゲン」戦略の背景
 ロシア赴任終了後の2012年、庄司氏はドイツのフォルクスワーゲン社にヘッドハンティングされ、フォルクスワーゲングループジャパンの代表取締役社長として就任する。ここで庄司氏が打ち出した戦略は「ゴキゲン♪ワーゲンキャンペーン」というものである。当時、フォルクスワーゲンという会社名を「ワーゲン」と短くして言い切ってしまうという、例えるなら「コカコーラ」を「コーラ」と言ってしまうようなキャッチコピーが話題となったものだが、これには次のような背景があった。
 フォルクスワーゲンの弱点は、車種であるゴルフやビートルに対する世間的認知はあるものの、それがフォルクスワーゲンというブランドの自動車であると結び付けられていないことにあった。学生時代のクラスメートに例えるならば、メルセデスはサッカー部のエースストライカー、BMWはロックバンドのリードボーカル、そしてフォルクスワーゲンは真面目だが目立たない学級委員といった立ち位置である。つまりメルセデスやBMWはブランドそのものに強烈な印象があるのに対し、フォルクスワーゲンは良い車だったということは理解されているものの、ブランドとしての印象が薄いのである。

VW競合ブランドイメージ jpg

 このためフォルクスワーゲンは、ブランドイメージではなく車種のイメージで車を売る方法を取らざるを得ず、ゆえに広告宣伝をした車しか買ってもらえないという状況が続いていた。
 この状況を打破すべく、庄司氏はブランド力を強化する施策を打つ。「商品力」においては、フォルクスワーゲンの車は輸入車として日本で初めてカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するだけの力がある。そこで「ブランド力」を高めることで販売現場を活性化し、販売力と顧客ロイヤルティの両方をアップしていくという戦法である。そしてこの「ブランド力」の強化でカギとなったのが、フォルクスワーゲンというブランドの世界観・イメージを明確にすることであった。
 この施策を進めるうえで課題となったのは、販売ネットワークの「意識レベルの統一」である。フォルクスワーゲンにはファーレン店とデュオ店という二種類の販売ネットワークがある。ファーレン店はフォルクスワーゲンブランドに愛着が強い一方、出自がバラバラで統一感が薄い。デュオ店はトヨタと提携している販売店であるため教育された良いスタッフがいる一方、良くも悪くもトヨタスタンダードでありフォルクスワーゲンカラーが出にくい。このように生い立ちの異なる販売店のスタッフの意識レベルを統一させることが、フォルクスワーゲンの世界観・イメージを明確にするうえでも急務であった。

「世界観」を一致させるタグライン
 そこで必要になったのが「分かりやすいタグライン」である。販売店の現場スタッフにとっては、どういう態度で顧客に接したら良いのかという「行動規範」が理解できて、ブランドの「世界観」を造っていけるもの、そして顧客にとっては、フォルクスワーゲンの何に惹かれ共感しているのかを顧客自身が理解できて、ブランドの「世界観」を感じることができるもの、つまり双方の「世界観」が一致するタグラインである。
 この「世界観」について庄司氏は、BMWから来たとあるトップセールスマンのエピソードを紹介。彼はワーゲンの週末イベントの際に、BMWの頃の方法に則ってロゴの付いたキーホルダーや限定物の来場記念品を用意したのだが誰も来なかったという。ところが次のイベントの際「奥様やお子様が喜ぶ景品を用意しました」と顧客に連絡したところ、家族皆で来場したそうである。「こういう所にブランドの差が表れるんですね」と彼は言い、庄司氏はこの時、顧客にとって「世界観」というものがいかに大事かを学んだとのことである。
 また「行動規範」について庄司氏は、メルセデスやレクサスといった高級車の販売店では「いらっしゃいませ」という挨拶と90度近くに腰を曲げたお辞儀が求められるかもしれないが、フォルクスワーゲンではむしろ「こんちは」という掛け声と軽い会釈の方が顧客の受けが良いと解説。つまりスタッフのお辞儀の仕方や話し方といった「行動規範」の一つひとつがフォルクスワーゲンの「世界観」を構築しているということである。

VW世界観.JPG

 このように、双方の「世界観」を一致させ共有していくためのスローガンとして作られたのが「ゴキゲン♪ワーゲン」であった。この標語のもとにスタッフは、来店したお客様を「ゴキゲン」にするための「ゴキゲン」な接遇に傾注する。それによって顧客はフォルクスワーゲンの車に乗ると「ゴキゲン」な気持ちになることから「ゴキゲン」にされに販売店へ来るようになる。世界観を共有することで好循環が生まれたのである。
 この標語が直ちにフォルクスワーゲンジャパン全社の行動規範になった訳ではないが、「顧客満足度ナンバーワン」や「お客様が第一」という標語よりも「ゴキゲンにしましょう、ゴキゲンな接客をしましょう」というメッセージの方が伝わりやすかった、と庄司氏は当時を振り返った。

◎庄司氏自身が持っていた障壁
 ここで庄司氏は「『ワーゲン』という言葉、フォルクスワーゲンという社名を『ワーゲン』と短く言ってしまうことに対する心理的な抵抗感を一番持っていたのは私自身だった」と吐露する。この提案を広告代理店から受けた時に庄司氏は思わず「三日考えさせて欲しい」と言ってしまったそうである。ハンガリーで散々痛い目に遭い、ロシアでも痛い目に遭い、南アフリカで色々と勉強してきたことで「自分に障壁を作ってはいけない」と学んだはずの庄司氏であったが、しかしながら「ワーゲン」という言葉に対して、誰よりも自分自身の中に社名という大きな障壁があった、と庄司氏は苦笑した。

総括 あなたへの"WHY"が自身への"WHY"になる
 以上、ドイツ・ベルリンへの赴任から直近のフォルクスワーゲン社でのエピソードまでを語った庄司氏は、総括として以下を提示し解説。

異文化や多様性と向き合う―「WHYを常に持つこと」
  あなたの国・言語に対して興味→あなたへのWHY
それぞれの言語的人格を一つに集約させていく→「自己確立」
  アイデンティティの信頼にかかわる
  自分のパーソナリティのルーツを示すこと・・・自身へのWHY
グローバルビジネスに必要なこと
  まずは人間ありき、そこからリーダーシップ
  広い意味での愛情
組織におけるリーダーシップに必要なこと
  動きやすくし、勢いを滞らせないこと
  考え方を提示し、「これをやれ」と指示はしない

 異文化や多様性と向き合うことについて庄司氏は「向き合うとは受容する事であり、相手に合わせることではない」としたうえで、それぞれの国の言語や歴史や文化に対し興味を持つこととは、その相手へ「問い」であると述べ、そしてそれは翻って自分自身への「問い」でもあることから、自己の確立が肝腎であると提言。
 グローバルビジネスに必要なことについても庄司氏は、所詮は人間のぶつかり合いであり人間ありきであるから結局は自分について考えることに立ち返ると言い、近年社会問題として取り上げられている会社での精神疾患について「自分について考えることが少ない人は罹りやすい傾向にある」と指摘。自分が育った背景や自身の性格を理解し、欠点や弱さも含めて肯定することが自己確立の出発点になると提言した。
 そして様々な国や地域で組織を牽引し束ねてきた庄司氏が、リーダーシップに最も必要なこととして言及したのは「勢い」についてである。フォルクスワーゲン時代の話だが、ある幹部が部下の提出するプレゼンテーション資料に対し、幾つも注文を付けては突き返すという行為を繰り返していたという。見かねた庄司氏は、その幹部に突き返すことを止めさせ、トップマネージメントに提出するまでの間に指摘した点を直しておくことを条件に、前へ進ませるよう促したとのこと。
 そのプレゼンテーションを作った担当者が「これでいける!なるほどここを直しておけばいいんだな」という気持ちで臨むのと「またやり直しか…」という気持ちで何度も修正するのとでは、同じ結果を提出するのであっても勢いが圧倒的に違うと庄司氏は断言。社員が仕事をしやすい環境を作るためにも「リーダーは組織の勢いに気を配らなければならない」と庄司氏は改めて強く提言し、講演を締めくくられた。

トークセッションの様子 838.JPGのサムネイル画像

トークセッション -講演の振り返り-
 後半のトークセッションでは須子氏のファシリテートのもと、講演の内容で特に印象に残った話や気付かされた点について2~3人のグループに分かれて共有し合う時間を設け、参加者数名に発表してもらった。
 「勢い」についてのエピソードに感銘を受けたという高校生の参加者に対し庄司氏は、平社員の立場だった時に使った「deal killer(取引成立の妨げになる事柄、致命的な問題点)を先に聞く」という方法を紹介。伊藤忠では案件を上司に提出する際、事前の法務部チェックが必須であったが、弁護士は問題点を指摘するのが仕事であるため、庄司氏が担当するその案件についても疑問点を10点程挙げてきたという。しかし全てに回答していたら交渉相手が痺れを切らして次の企業の所へ行ってしまうかもしれず、庄司氏は一刻も早く回答を得なければいけない立場にあった。
 そこで弁護士を突破するために取った苦肉の策が、「解決しなければdeal(取引)をkill(不成立)していい」ポイントを弁護士本人に直接言わせるというものであった。庄司氏はその際に「弁護士が疑問点10個全てを条件と言ったがために、契約できるはずのものができなかったと皆に触れて回るぞ」と弁護士を脅し、その発言に慄いた弁護士は真剣に考え、そして「土壌汚染問題だけはクリアしろ」と言ったそうである。
 この件以来、庄司氏は方々で難癖を付けられた際には、deal killerと呼べるポイントを相手に絞り込ませるように仕向け、「勢い」を保持してきたという。

 また30代男性の参加者からは「常に想定外の状況に対峙しながら多くの意思決定をしてきたと推測するが、ロシアでの200万の支払いや『ゴキゲン♪ワーゲン』戦略での“フォルクス”を取る決断といった、庄司氏自身の正義とは反する意思決定も多かったのではないかと思われる。その時の心の拠り所とでもいうべき価値観等はあったのか」という質問が上がった。
 これに対し庄司氏は「100のうち51合っていればいいと思うようにしている」と回答。ビジネスにおいては「正解」というものはなく、ロシア時代のエピソードにもあったように、状況如何で変わるものである。ならば決断は早い方が良いので、迷わなくて済むよう51パーセント合っていれば良いとし、判断のハードルを下げているとのこと。
 また庄司氏は、決断について後悔はしないが、合っていたかどうかは常に振り返り、他者の声にも常に耳を澄まし、独善的にならぬよう努めていたとも発言。そして皆の前では胸を張って決断したと見せながらも裏では悩んでいたと言い、「悩んでも大丈夫、それが普通だから」と自分を労っていたと話し、会場を和ませた。

トークセッション -“WHY”をテーマに、自分自身の壁について問う-
 講演の振り返りの後、ファシリテーターの須子氏は講演のテーマでもあった“WHY”について、次の3つのお題を提示。

1.昨年一年間のあなた自身を振り返ってみて感じた、自分自身の壁(boundary)は何でしょう?
2.その壁(boundary)はあなた自身のどこから来ると思いますか?
3.お題2で気付いたことを今年一年どう扱いたいか考え、絵馬に書いてみましょう。

 須子氏は上記について、「普段我々が新年の抱負を神社等で書く場合、自分の弱い所を否定し克己するといった内容になりがちだが、今回は講演テーマに従い、自分自身へ『問い』を向けることを主旨としたい」と述べ、セッションの順序として、まず1で、自分自身の壁が何なのかを知り、それを否定することなく見つめる。次に2で、その壁が自分自身のどこから来るのか、そのルーツを感じる。そして3で、2にて感じたことを今年どう扱うかを絵馬に書く、という流れを説明。
 ここで庄司氏は「『壁を壊す』とよく言うが、簡単なことではない。人は皆、壁を壊すと痛い目に遭うことを知っていて、そこから出たくないから壁を作っている」と述べ、だからこそ自分の壁がどこにあるのかを認知するところから始めることを提案。自分の壁を知ることによって壁に映った自分が見え、その壁がある理由が分かりはじめる。認知をしておくことで、壁をいざ取り払わなければならない時に取り掛かりやすくなる、と補足した。
 こうして参加者は再びグループでダイアログを重ね、そして絵馬に「自分だけの“WHY”」をテーマに、前例のない新春の所信表明をしたためた。

トークセッション -絵馬に書かれた「自分だけの“WHY”」-
 参加者のうち3名が代表して所信表明を発表し、それらについて庄司氏がコメントを寄せた。

◎猪俣さん:「今年はチャレンジ」
 自分の壁は、自分で線を引いてしまうところ。失敗が怖いため、失敗が痛手にならない所で線を引き、限界を設定してしまっていた。でもBBTに入って、失敗とは恐れずに経験していくものなのだと知った。今年は恐れないということを目標に掲げたい。

庄司氏:失敗は怖いが、先程も言ったように「見たことのないお化け」が一番怖いものであり、表現を変えると、小学校の時のインフルエンザの注射で一番痛いと思うのは「後三人で俺だ」と思う時である。刺したその瞬間は痛いが、痛いと感じた時には注射は終わっている。つまり一番痛いのは起きる直前であり、それさえ乗り切ってしまえば大したことはない。大したことと思い込んでいる自分が一番痛い思いをさせているので、そこを乗り越えてしまえば大丈夫。チャレンジと構えなくても、気が付いたら出来ていたということも割と多い。

◎森さん:「そろそろ私が主人公」
 これまで夫をサポートする主婦としての時間が長かった。しかし子供が大学生になり、経済的にも精神的にも安定し楽になってきたので、前々からしたかった「起業」を形にしていきたい。私くらいの年代の女性が世の中に沢山出てきたら、日本は明るく元気になるのではないかと思う。

庄司氏:宣言するのはすごく良いこと。先程言った優先順位についてだが、自分がしたいことを明確にし、何が自分にとって一番大事なのかを相手に伝えておくことが大事である。社長業を長くやってきた中で自分が心がけていたことは、たとえ偏った趣味嗜好であっても、好き嫌いについて相手にはっきりと伝えることだった。そうすると相手も自分を理解し受け止めて上手く動いてくれるようになる。

◎坂下さん:「そのリスクは本当にクリア出来ないのか」
 自分の壁は、出来ない理由を探してしまうこと。毎年「失敗を恐れず、壁を壊していく」と言いながらも出来なかったので、その度に出来ない理由を設定してしまっていた。だから今年は一つランクを下げて、一度そのリスクについて考える時間を作ろうと思い、これをテーマにした。そしてその出来ない理由が、本当に出来ないものなのかを考え直すことが出来たら、また変わるのではないかと思った。

庄司氏:出来ない理由を探している時は、本当はやりたくないのだと思う。やりたくない自分を素直に認め、自己肯定すること。肯定すると今度は、どうすればやる気になるのか、どう変えられるのかが出発点になる。自分自身の壁を見るということは、やりたくない自分を投影することでもあり、それ故に人は出来ない理由を探してしまうもの。
会社にいると出来ない理由を沢山思い付く人間が一番偉いような扱いをされる場面が結構ある。それは良いことではないが、しかしそれによって楽になることもあるので、一辺倒に悪いことと思い込まない方が良いような気がする。

庄司氏と参加者の歓談写真 912.JPGのサムネイル画像

 会場の参加者たちは、異文化や価値観の差異からくる幾多の困難と対峙しながら組織を牽引してきた庄司氏によるリーダーシップのあり方を真剣に聞き入り、そしてトークセッションでは、“WHY”をテーマに自分自身の壁を「問う」という稀有なワークに集中し取り組んだ。
 参加者からは、
「庄司氏の経歴は必ずしも楽なことばかりではなかったと思うが、非常にチャレンジングで、厳しい所へも自ら赴かれていた。そういう点でも非常に学ぶことが多く、大いに役に立った」
「庄司氏の言っていたことをヒントに今までにない絵馬が書けた。不安と恐れを当たり前のこととして自覚し、不安と恐れの根拠を分析し、そして過去に不安と恐れを抱いた体験を振り返ることで、一歩ずつ乗り越えようと思えた」
「自分の壁について考えさせ、壁を分かるようにさせるという方法論が、文字通りブレークスルーだと思えた」
「庄司氏は、穏和でありながらも相当な強い意志を持ち合わせている。そして、その求心力の根底にはやはり穏和さがあるからこそ、庄司氏が思っている方向に周りの人々が皆動いていくのだろうと思った」
など、多くの感動の声が上がった。
 参加者は懇親会が終わってもなかなか帰ろうとせず、庄司氏を囲み歓談に時を過ごした。新春特別講演の名に相応しい、参加者の反響を巻き起こすイベントであった。

集合写真 217.JPG

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